コーポレート・ガバナンス(企業統治)は、そもそも、何のためにあるのか。一般的には、株主の利益、顧客の保護だと考えられている。その中でも、コンプライアンス(法令順守)はコーポレート・ガバナンスの中核的概念であろう。それは従業員が法令違反を引き起こすことの無いような仕組みの構築でもあるが、元々は、エンロン事件を機に、組織の中で支配的な立場にある経営者や経営層にいる人達が組織的に法令違反を犯さない様に牽制する仕組みとして考えられたことを忘れてはならない。
社会は変化し、社会的規範も変化していく。経営に携わる人達も従業員も社会規範の枠で物事の善し悪しを考えてしまう。人は性善説に基づいて行動するといったことではなく、倫理感(エシックス)とは、社会規範や企業文化に左右されるものである。民主国家における軍需産業は肯定されるが、独裁政権下における軍需産業は悪とされる。本来、どちらであり同じ様に悪である筈であるが、民主国家における軍需産業は自由や民主主義を守るためという大義があると主張される。
本来、コーポレート・ガバナンスもコンプライアンスもエシックスも、未来社会の持続可能な発展に供するものであるかを問うべきであろう。あるいは、法令そのものも、社会規範も、未来社会の持続可能な発展に供するものでなければならない。今の社会における安全や安心、利便性を実現するものだとしても、未来社会を危機に陥れかねないのであれば、それは正しくない。
人には安全性バイアスもあり、誰しもが社会的ジレンマ問題を抱えている。良かれと思ったことが災いになることもある。過去において、企業が成長ばかりを考えた結果、公害を引き起こしてしまった歴史もある。企業が組織として未来社会の持続可能な発展のために何をなすべきか、何をしてはならないか、何をしないでいるべきか、今の社会への影響だけでなく、影響の先に起こり得ることをシステムダイナミクスで考えて行動しなければならない。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一