ベーシックインカムの考え方は、まだ、社会実験の段階にあるとは言え、は世界的に広がりつつある。
人工知能が人間の仕事を奪うと言われており、失業対策としてのベーシックインカムも議論されている。技術革新により職を失うというのは、歴史上繰り返されてきたことであり、人工知能によって失業が増えるというのは短絡的である。しかし、現実の問題として、職種の転換を迫られて、より賃金の安い職に就かなければならないなど、賃金低下につながっていくことは否めない。仕事を得られない生活弱者にとっては救済になるが、誰もが平等にベーシックインカムを得られることで、労働意欲を失うという懸念もある。当然のことながら、ベーシックインカムの財源をどうするかという問題もある。欧米で政治難民を多く受け入れている国においては負担が大きくなる。
経済成長の著しい国はベーシックインカムを導入する必要性はない。成熟経済の進展している国において、また、福祉国家と言われている国においては導入が進むとみられる。貧困に苦しんでいる国においてはベーシックインカムを導入するだけの余裕はない。その結果として、ベーシックインカムを導入している国、ベーシックインカムを導入していない国が混在し、また、その制度も多様になると考えられる。ロボットや人工知能の進化と暮らしの中への浸透の仕方に応じて、ベーシックインカムの制度を考えていく必要がある。全く、否定せず、また、全てを肯定して、この制度の導入と社会システム、社会的文化や風土について対応していかなければならない。
これからの時代、利己的に目先の利益を得れば良いとするのは社会的に許されない。そうした企業への社会からの反発は厳しくなっていくと思われる。その一方で、経済成長を優先する政策は国民に受けるため、ビッグデータを活用してポピュリズムにより当選した政治家の多くは一国主義や保護主義を論って、グリーンエコノミーなどは自国には関係ないと主張し、自分たちにとっての利益を優先する政策を展開していく。当然のこととして、一国主義や保護主義による分断社会は、貿易戦争を引き起こしていく。資本主義の刃が世界中を紛争の場に巻き込んでいく前に、ベーシックインカムについて議論していく必要があるのではないかと思われる。未来社会の持続可能な発展を考えていく上で、ベーシックインカムは一つの選択肢となるだろう。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一