一人ひとりが内発的動機づけの下で自律的に働けるという環境においては、とりもなおさず、一人ひとりが何をなすべきかを考えなければならないということを意味する。逆に、何をなすべきかを考えない働き方は、言われた通りのことを行えば良いという働き方である。
何をなすべきか考えるためには、まずは、目的を明確にしなければならない。何をなすべきか考えることを考える働き方とは、目的そのものをも考える働き方である。ビジョンを描くのも目的そのものを考えることであり、周囲の環境変化に合わせて最終的な目的の実現のために“現時点では、何をなすべきか”という当面の目的を考えることもその一つである。
何をなすべきか考えるためには、その実現過程における前提や制約についても自ら考えなければならなくなる。目的の達成のためなら何をしても良いという訳ではなく、社会システム、制度、倫理、使用可能な資源などの制約を設けて、その範囲内で思考して行動しなければならないのである。
ビジョンという目的にせよ、当面の目的にせよ、何をなすべきか考えることを考える働き方の下では、一人ひとりがその実現のために、常に、社会システムや制度をデザインし、社会の中で育まれた共通の倫理の下で、使用可能な資源を最大限に有効利用していく方法を考えて行動しなければならない。
「何をなすべきかを考えない働き方」「言われた通りのことを行えば良いという働き方」を是とする働き方の改革の思考の下では人事制度の整備にばかり目が行ってしまう。一方、「何をなすべきか考えることを考える働き方」の改革では、一人ひとりの目的を重視することになる。すなわち、色々な人の考え方や価値観の多様性に視点を当てていくことになる。そして、一つの目的(ビジョンや当面の目的)の実現に向けて、そうした多様な人たちを巻き込んでいく柔軟な仕組みが「働き方改革」の論点となっていく。この仕組みこそが「組織のダイナミズム」を生み出す源泉となる。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一