誰もが、新たに事業を起こす際に考えることは、その事業が事業として成り立つかどうか、すなわち、どれくらいの売上が上がり、利益を得ることができるかどうかである。当初は赤字であっても、いつ黒字化できるかどうか、そして、投資採算性があるかどうかが事業としての判断材料となる。
とは言え、闇雲に数字を見積もっても意味がない。そこで、経営学では、事業が事業として成り立たせるための様々な方法論が編み出されてきている。大雑把に言えば、顧客のニーズは何でどんな商品を揃えればよいか、市場をどう捉えてどうやって顧客にリーチするか、競合はどういう手を打ってくるかであり、1950年代以降にSWOT分析やPPM分析が提唱され、その延長上に1980年代に競争戦略、2000年代にブルーオーシャン戦略が編み出された。マーケティング分野でも1980年代以降、STP/MM、3Cなどの手法が一般化してきている。最近では、ビジネスエコシステムなどの考え方が流行りつつある。また、グローバル規模での人口増加(日本は人口減少社会)に対して地球資源には限りがあるという危機意識から、世界的な方向性としては、シェアリングエコノミーの社会へと向かいつつある。消費がどんどん生まれて、大量生産大量販売により事業が成長していくというモデルを是とした発想は成り立たなくなってきている。
これらの様々な手法を用いること有効ではあり、意味がないことではない。しかし、こうした思考の本質は、[新規性があるかないか][独自性があるかないか]の2つの要素を組み合わせて、どんな手を打つべきかを考えているに過ぎない。①[新規性がある-独自性がある]なら新事業として展開していくべきである。②[新規性がある-独自性がない]なら、すなわち、新たな事業でも他社が先んじているなら新市場獲得競争に打って出るしかない。③[新規性がない-独自性がある]なら、すなわち、独自性を活かしてニッチな市場を開拓していくのがよい。④[新規性がない-独自性がない]なら、すなわち、今さらその事業に投資してもあまり意味がないとも言えるが、新たな事業を起こすだけのアイデアも能力もなければ、徹底的にコストダウンを図ってコモディティ戦略を展開するしか方法がない。
結局、その事業が事業として成り立つかどうかを判断するということは、この4つの組み合わせに対して、自らの置かれた位置づけと体力(事業に投入できる資源)をパラメータとして、どうしたらメリットを生み出せるか(最大化させうるか)を判断して取り得る戦略を選択しているに過ぎない。そして、この思考に閉じこもっている限りにおいては、イノベーションを興し得るとは言い難い。事業が事業として成立するかということばかりに執着して囚われていると、思考停止状態に陥ってしまう。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一