#102 事業を起こせてもイノベーションを興せない

 アイデアがあり、資金があり、必要な人材がいれば事業を起こすことはできる。顧客を獲得して、売り上げを立てて利益がでれば、事業として成り立つ。しかし、イノベーションは、社会の変化を伴う現象である。売上や利益は、事業を短期的なスパンで捉えた指標であるが、イノベーションが巻き興るまでには長い時間を要するものであり、それがイノベーションであると規定しうる指標は存在しない。
 しかし、イノベーションは偶然生じる現象ではない。イノベーションが社会の変化を伴う現象である以上、イノベーションを巻き興していくためには、①将来の社会の在り様に思いを馳せ、②その先にどんな変化を起こして、③どんな社会にするかをデザインし、④その実現に向けた様々な戦略的、および、⑤様々に起きる事態にダイナミックに対応していく組織的な息の長い取り組みが必要となってくる。
 事業を起こし生業としていくための思考方法と、イノベーションを興すための思考方法は異なる。前者については、事実と目標との間にある問題を洞察し合理的に解決する論理思考が必要である。一方、後者については、将来の社会を対象であるために、何を大義として将来の社会を思い描くかに焦点が当てられる。そして、将来社会を想起できるメタ思考、将来の社会に変化を巻き起こして実現化していく目的思考が必要となる。
 ここで肝心なことは、事業を起こしていくこととイノベーションを興していくことの差は、単に、短期的思考と長期的思考、経験や知識に基づく思考と将来を予測していく思考、現場視点からの思考と大局的思考の差ではないということである。イノベーションを興していくには、将来の社会をデザインする思考能力(ビジョンの構想力)、様々な要素が絡み合って変化していく状況をダイナミックなシステムとして捉えていく思考能力が備わっていなければならない。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

 

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