#80 サステナビリティ(持続可能性 :“sustainability” )で考える年金制度改革の方向性

今、国会で年金制度見直しの議論が進んでいる。逼迫する財源、今後予想される生産年齢人口の減少に伴う収入の減少と超高齢社会化に伴う支出の増大に対して、経済的な持続可能性で考えれば、物価が上がろうとも給与水準が下がれば支払い額を下げようというのもひとつの道理である。
 
しかし、年金に頼って暮らしている人達にとっては、物価が上がるは、年金支給額は下がるではたまったものではない。一人ひとりの視点から見れば、安心して老後を暮らせるかというと不安は大きい。こうした方向性での年金制度見直しは持続可能ではないというのにもひとつの道理がある。

経済成長を目指したインフレ誘導の経済政策がある一方で、社会は成熟し経済的にも成熟化しており、企業業績の右肩上がりの成長は見込めず、給料も右肩上がりに上昇していく見込みもない。 現実的にも、給与水準は上がってきていないというのが実感である。

成熟経済下での企業経営としてはコストダウンを図るしかなく、将来的にも成長が望めないという不安があれば、給与アップや設備投資よりも内部留保を考える。一人ひとりの暮らしにおいても、誰もが、余計な出費を抑え、老後に備えて貯金をしなければと考えるようになる。 こうした状況ではお金は回らないし、結果的に景気が良くはなる筈はなく、経済成長は見込めない。

 
この様に、経済的視点だけでは自己矛盾に陥るばかりであり、年金問題の解決には至らない。 そこで、抜本的な年金制度改革が必要ということになる。

年金制度の根本的な問題は、少子高齢化が進むことで、生産年齢人口に対して高齢者の割合が大きくなることにある。 少子高齢化に歯止めをかけるには、出生率を高めて子育て環境を整える必要がでてくる。 給与水準が上がらない状況で子育てできる家計を支えるためには共働きの環境も整える必要がある。 そしてそのためには、雇用の多様性を高めて女性の雇用環境を改善し、働き方を変えて夫婦で子育てできるようにし、保育施設の充足化を図るなどの様々な施策を動員することが必要となる。

しかし、現実的には、企業経営における人事制度変革が一気に進めることは難しい。 コストダウンが迫られて採用を増やすことはできず、その一方で、様々な手続きが増え、きめ細かな顧客対応が求められることで仕事が増え続ける中で、働き方を変えて残業時間を減らしていくためには、低賃金での人手を増やすしかなく、非正規雇用の増大につながってしまう。

 
こうした社会問題解決型の発想では抜本的な解決はできない。 サステナビリティ(持続可能性 :“sustainability” )の視点から思考し、社会全体として一人ひとりの暮らしの将来像を描き、企業経営として事業を通して実現していくイノベーションを巻き起こすシナリオを描いていくことが必要である。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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