ここでは「社会の持続可能な発展を見透すICTコンセプト」について、これまでの歴史的経緯をひも解き、サステナブル という新たな発想の下で、これからどうあるべきかについて示していきます。
ICTデザインコンセプトの発展の歴史
1990年から2000年にかけて企業の情報システムと言えば業務処理システム(BPRを目的としたERP)というのが一般的でした。これは、業務のビジネスモデルの実現、業務の効率化、商品やサービスの品質向上、コストダウンを目指した取り組みといえます。一方、SIS(Strategic Information System)等のマネジメントの品質向上と効率化を目指した取り組みもありましたが必ずしも成功したとは言えませんでした。
また、同時期、データウェアハウスとBI(Business Intelligence)の仕組みが流行し、企業内のトランザクションデータを明細のまま集めてスライス&ダイスという手法で様々な観点からデータを集計して戦略経営や事業戦略に役立てようという動きも見受けられました。更には、顧客のプロフィールと購買履歴を捉えて販売促進に役立てようという動きもありました。現在は、POSやカード情報が一般的になっていますので、これら情報を店舗での売り場管理や在庫品揃え等に活かそうというのが浸透してきています。しかし、これらは既に起こった過去の情報の、しかも、企業内で扱う伝票情報がベースとなっているという意味では、極めて不完全な情報システムと言えるでしょう。
ICTデザインコンセプトの未来への展望
最近の動向は、オープンデータ(公開された公的情報、例えば、国勢調査情報)等を統合し地図上にマッピングする地図情報システム(GIS)が進化してきており、また、SNSとGPS情報を組み合わせて、今、そこにいる人の生の声(つぶやき)のキーワードからまさに今のトレンドを捉えることも可能になってきました。これは、企業の壁を越えた地域住民の実態を捉える情報システムとしての進化と言えます。
とは言え、社会の持続可能な発展を目指していくためには、もう一歩先の将来、顧客や地域住民だけでなくその周囲にいる人達との関係性に基づくその先に実現したいこと(ニーズ)を捉えることが必要となります。これは仮説(アブダクション)の世界となります。今の情報を静的に見る(見える化)のではなく、動的に捉えて変化の兆しを捉えていく、見透し化の仕組みが必要です。それは、社会のムーブメントを捉える、社会とのダイアログを通して組織学習する、組織の中での意味を形成していく、すなわち、未経験の状況に対処する組織学習の仕組みでもあり、様々な状況から取り得る施策(これまでに蓄積された経験知、選択肢)の中から適切な経営の意思決定をするための情報システムとしての仕組みでもあります。
これからのICTデザインコンセプトに求められること
経営には「勘と経験と度胸」が必要とも言われます。しかし、適切なアブダクションを導く、また、アブダクションを評価する、きちんとしたデータに基づく分析も必要です。
ここで、気をつけなければならないことは、データに踊らされない、間違ったデータや偏ったデータに惑わされない、情報麻痺症候群に陥らないことです。そこで、アブダクションのための ナレッジデータス(BKN:Business Knowledge Network) が必要になります。この ナレッジデータス(BKN:Business Knowledge Network) の基本コンセプトは『既存のコンテクストに依拠せず、発想の転換を引き起こすナレッジベースとなること』です。
ここで、この基本コンセプトのポイントを以下に整理しておきます。
- 経営環境の新たな変化やボーダレスなビジネスエコロジーに当意即妙に対応できるように、様々な分野での最新の動き(トレンド)を体系整理し、かつ、これまでの動向をその形成された背景からひも解いて、過去から現在に至る過程を分析できるようにする。
- 多様な戦略を漏れなく重複なく整理し、その進め方を深掘りすることができる。
- 広い視野で社会の未来を見透せる化する様々なテクノロジーと紐付けることで、現在から未来に向けて最適な戦略を適切に選択し展開できるようにする。
- 様々なナレッジのネットワークをリンク付けし、または、キーワードで検索して結び付けることができる。
企業の持続可能な成長を見透すICTコンセプト
次に、「企業の持続可能な成長を見透すICTコンセプト」 について考えてみることにしましょう。
社会がどんどん変化してく状況を捉えて、企業の持続可能な成長を見透していくためには、従来のような業務改革(BPR)を目的とした情報戦略ではなく、それ以前に、社会の変化の兆しを捉えて、かつ、それら変化の意味を組織内で形成し共有していかなければなりません。その意味で[状況に適応する][変化を創造する]という目的で情報を捉えて、戦略的に活用していくことが求められます。
その意味で、情報を大局的に捉えていく、その詳細を分析して把握し、実際の業務に落としていくという階層が生まれてきます。それは、企業の持続可能な成長を実現していく管理の階層にも関わってきます。すなわち、「企業の業績管理」「戦略の管理」「KPIマネジメント(業績に関わる財務数値ばかりでなく、非財務の指標、顧客に関わる指標等も含めた指標管理。いわゆる、BSCによる管理の概念である)」「ビジネスモデルの管理(ビジネスエコロジーの管理)」「現場の管理」、そして、これらマネジメントや業務に関わり、日々に蓄積されていく「知的財産(ナレッジ)の管理」ごとに、情報活用の目的、内容が設定されていくことになります。
企業の持続可能な成長の原動力、すなわち、その企業ならではの社会の持続可能な発展を実現する力(潜在的に秘められた能力)を育み引き出していくためには、企業の外に広く目を見開き耳を傾けた社会との対話(ダイアログ)を通して、実際の社会の中で暮らす人々の言葉の深層にある願いを受容し、得られた新たな発想を生かして自らのものへとして結実させていく組織学習が必要です。社会の持続可能な発展 と企業の持続可能な成長をつなげるプラットフォームは、様々なコミュニケーションチャネルでのそうした社会との対話(ダイアログ)による組織学習を実現する基盤になります。