#77 AI(人工知能)をサステナブル経営に活かす (17) 深層分析と Abduction(仮説創造)

 私達の日々の暮らしは、ある程度のパターンはあるにしても、状況(コンテクスト)に応じて様々で、一定している訳ではありません。
 一つの題材で小説を書くにしても、着眼の仕方、誰の視点で描くかによって無数にある様に、多様な個性が重視される社会においては、一人ひとりの感性やおかれている立場、その場所(場面)、その時々のシーンに合わせて、顧客の暮らしの中にあるストーリーを想像し、「きっとこうしたら良いですよ」というシナリオが描けなければビジネスは成功しません。

 とは言え、無限にあるストーリーの中から、顧客のその時にピッタリ当てはまる魅力的なシナリオが描いていくためのヒントが全くないという訳ではありません。
 まず、はじめに、ストーリーの骨組みを考える必要があります。当然のことですが、そのためには、顧客のプロフィールを知ることです。これには、ポイントカードやクレジットカード等、店頭での接客段階での様々な工夫がなされていますが、何よりも、対面しての会話が重要です。
 そして、目の前にいる顧客だけでなく、家族や友人などの顧客を取り巻く人達のことを、共感をもって聞くことにより、プロフィールから浮かび上がるより深いニーズを知ることができ、何よりも親密な人間関係を構築することが可能になります。
 そこで、下図をもとに、暮らしを捉える切り口と影響を与える要素を整理して、その組み合わせを考えていくことにします。
 

 
[私たちの消費活動]
衣食住、生活インフラ(生理的欲求を満たしていく活動)/健康、スポーツ/子育て、医療、介護/交通(通勤や通学、買い物、通院等の移動)/通信(情報収集:マスメディア・ネット、コミュニケーション:SNS・メール・手紙等)/交際/社会的活動/文化創造活動/行楽、娯楽/家事や仕事/教育、自己啓発/将来への投資(学位、資格)/預金、投資 等

 これらの要素に含まれる個々の内容は、暮らしている地域や経済状況によって様々に違いはありますが、これら要素の捉え方そのものに差異はありません。その意味で、この要素を捉える切り口は「暮らしのメタモデル」となります。
 そして、これら要素に対して“実現したいこと”、即ち、下記事項について、①場の実現、スタイルの実現、シーンの実現、②心の中に占める商品の存在感の充足、③購買の意味づけと正当化(価値づけ)をすることにより実現させていこうとします。

[実現したいこと]
裕福な暮らし(経済的な裕福さ)/心豊かさを感じる暮らし/健康で健やかな毎日/家族団欒(円満な家庭)/自分らしい生き方/金儲け/将来への備え(貯蓄、節約の暮らし)/最先端の流行の暮らし/余生の悠々とした暮らし/豊かな人間関係の構築/社会的地位の向上/社会、文化活動への参画 等々

 一方、これらは常に、以下の影響を受けることにより多様に変容していきます。

[実現したいことに影響を及ぼす要因]
信条(世界観、人生観、倫理観、理想像、教訓、戒、しきたり)/感情(愛憎、喜怒哀楽/苦、好き、嫌い)/人間関係/社会心理、深層心理(購買心理)/時代のムーブメント、世の中のトレンド、ブーム/ライフスタイル(職種、収入、家族構成、年齢構成、世帯構成、持ち家/賃貸、地格、駅からの距離、居住年数等)/ライフイベントのプレイス・スタイル・シーン/買い物のプレイス・スタイル・シーン/動線(移動手段、経路等)/五感覚(色彩・色合い・彩り、音色・心音・癒しの音・心に響く音階の音楽、風味・アロマ・匂い、味わい・鮮度・精進、手触り・肌触り・肌感覚、体内感覚・体内時計、わびさび・遊び・間、シーンの記憶/地域性、地域の地勢と自然環境、地域のヒストリー(文化、政治経済、災禍等)/家族のヒストリー(過去から未来へ、祖父母から親、子、孫へ)

 尚、ストーリーを作成するためのコストを考慮すると、想定する生活者層(地域住民、そこに住む標的顧客層、そこに住む関心を抱いている顧客、そこに住んでいる先駆的な顧客(イノベ-タやアーリーアダプター)、そこに住む実際の購買者、そこに住む実際の利用者)に絞って、ストーリーを作成するのが現実的です。

 ここで、注意しておかなければならないことが2つあります。当然のことであり、蛇足になるかも知れませんが、以下に記しておきます。

  1. 我々がビジネスで暮らしの中のストーリーを描く際には、小説やエッセイを書く訳ではないから、商品を提供する側に視座して、日々の生活の中で暮らしていくイメージをイキイキと描いていかなければならない。
  2. 商品やサービスの提供者の思いで、暮らしの中のストーリーを描いてはならない。あくまでも、顧客の日々の暮らしの中から商品の存在意義やプロモーションによる訴求の影響を考えなければならない。

※[経営][意思決定]等は[思考]という視点で捉えているという意味を持たせて、[ ]をつけて記しています。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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