1.関心が高まるサステナビリティ
1.1. サステナビリティへの関心の高まり
サステナビリティの認知度は、やや鈍化してきているものの年々高まってきています。特に、ミレニアル世代の関心の高まり、Z世代の関心は2020年以降に急上昇していることを踏まえると、将来に向けては、これからの社会を担うこの世代の関心に沿ったビジネスを展開する必要があることが分かります。一方、行動変容率の伸びは少ないので、行動を如何に変えるかが課題とも言えます。 (#1)
- 縦棒グラフ:
- 認知度(水色):サステナビリティ関連用語を認知している人の割合。
- 行動変容率(オレンジ):サステナビリティに関する知識に基づいて行動を変えた人の割合。
- 折れ線グラフ:
- Z世代の関心(緑色):若年層(Z世代)のサステナビリティへの関心が年々大きく高まっている。
- ミレニアル世代の関心(紫色):ミレニアル世代も継続して関心が高まりつつある。
- 高年齢層の関心(赤色):高年齢層のサステナビリティへの関心は緩やかに増加。
1.2. 関心の高いサステナビリティに関する論点
下表は、どのような論点に関心が集まっているかを分析したものですが、総じて言えば、以下のテーマに分類することができます。ただ、世代や性別での違いもあり、夫々に身近なテーマに惹きつけられていることも見てとれます。 (#2)(#3)
- 気候変動・再生可能エネルギー 気候変動の抑制、再生可能エネルギーへの移行
- エシカル消費・循環型経済 シカル消費、フードロス削減、廃棄物のリサイクル
- 多様性と包摂 ジェンダー平等、社会的包摂の推進
- 地域社会の活性化 地域発展、地産地消
- 働き方改革・健康と福祉 ワークライフバランス、労働環境の向上、Well-being の向上
なお、ペルソナ(1.1. 節)とサステナビリティの論点(1.2. 節)の関係性については、エコーチェンバー効果なども含め、どのような情報によって認知されているかといったことを検証する必要があります。
2.サステナビリティ・インサイトとは
第1章で示したように、サステナビリティへの関心は高まってきており、顧客の思考が、自分たちの不便を解決したり利益を追求したりするためのニーズだけではなく、社会に視座を高めたニーズを先行して考えるという傾向が高まってきていることが分かります。このことは、自分の倫理観から外れたことは拒絶し、かつ、社会問題に注意(アテンション)が向けられ、課題解決に資するソリューション(ナラティブ)が求められる傾向にあるとも言えます。
「サステナビリティ・インサイト」は「カスタマー・インサイト」と同様に、顧客が自覚している顕在ニーズに対してではなく、その背景にある自覚していない潜在ニーズの深層にある「原因となっている要因や意味を理解し、社会に視座を高めて、何を実現したいのかを見通すこと」といった意味合いになります。この『社会に視座を高めて』が「カスタマー・インサイト」と異なる『サステナビリティ』の視点です。
サステナビリティ・インサイトにも、下記の2つの意味があります。
- 顧客のサステナビリティ・インサイト 顧客の心の内にある社会に視座を高めたインサイト(隠された心理)
- 顧客についてのサステナビリティ・インサイト 顧客を理解するための社会に視座を高めたインサイト(見通すこと)
また、先のコラム「315 戦略眼と現実解 カスタマー・インサイトとデータドリブン・アプローチ」では、カスタマー・インサイトについて、「顕在ニーズとそこに潜む潜在ニーズに影響を及ぼすカスタマー・インサイト(TypeⅠ)」と「ナラティブとアテンションに誘発されるカスタマー・インサイト(TypeⅡ)」があることを示しましたが、同様に、サステナビリティ・インサイトにも、顕在ニーズ(既に起こったこと)に潜む潜在ニーズから得られるサステナビリティ・インサイト(一次的なインサイト(TypeⅢのサステナビリティ・インサイト))、および、社会に視座を高めたアテンションと社会的課題解決に資するナラティブの追求に向けられるインサイト(二次的なインサイト(TypeⅣのサステナビリティ・インサイト))の深さの異なるインサイトがあります。
3.サステナビリティ・インサイトへのデータドリブン・アプローチ
第1章で示した「関心の高い論点」は、ペルソナの相違によって生じる関心の違いやエコーチェンバー効果などの影響もあり、ステレオタイプに見た論点でしかありません。社会に視座を高めた視点からサステナビリティ・インサイトを得るためには、それぞれの人たちが抱いている倫理的な関心からも深掘りして見なければなりません。また、現実的には、様々な社会問題が深いところで複雑に絡み合って顕在化してきている問題として、より広範な視野で捉えることが必要となります。
3.1. より広範に関心のある社会問題を考える
そこで、まずはじめに、どのような社会問題があるかを認識しなければなりません。この段階では、自分に関わる問題としても、倫理的に関心の深い問題としても、その捉え方は様々であっても構いません。大事なことは、より広範に俯瞰して捉えて、多くのことに関わることです。
上図は「#311 戦略眼と現実解 社会の衰退から発展へ 社会問題と経営リスク、持続可能性の経済、社会価値創造」 の再掲です。
3.2. 身につまされるリスクから深掘りする
社会問題は静的な問題ではありません。次になすべきことは、何が変化するのか、今の変化の状況とこれから予想される変化の状況、その変化に対する立場から社会的課題として対応すべき問題なのかを考えることです。ここで大事なことは、自分の周りで変化する環境を捉えることによって、どんなリスクが関わってくるのかをデータに基づいて洗い出すことです。そうすれば、関心を拡げて見た社会問題も動的に捉えることができるようになります。
3.3. サステナビリティの論点からインサイトを引き出す
インサイトはセレンディピティにより閃きから生じるものです。環境の変化やそこから浮かび上がってくるリスク、そして、動的に捉え直した様々な社会問題を一枚の絵の上に広げて見直すことで、色々な組み合わせが、まさに、マッチングによって引き出されてきます。
こうして引き出すインサイトは、顧客自身のサステナビリティ・インサイト(隠された心理)の場合でも、顧客に対するサステナビリティ・インサイト(顧客を理解する上での見通し)のどちらの場合であっても同様です。
しかし、どちらにしても、この思考のプロセスには膨大で広範な思考が必要です。コストや労力を考えると、範囲を絞って進めることになります。最近では、生成AIやAIエージェント(自律型AI)が普及してきましたので、この過程を学習させて、サステナビリティ・インサイトを推論してレコメンデーションを得ることは可能となってきたと言えるでしょう。その場合、そのレコメンデーションを受け取る側の人間の理解の範囲、課題解決のために投資できる範囲のものであるかが問題となります。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一
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