1.ビジネス・フォーサイトとは
当社では「ビジネス・フォーサイト」(先のことを道理をもって見通すこと)を以下のように定義しています。
[社会の趨勢]から[社会発展の方向性][社会的価値の定義」「社会的機能の定義]を構想すること
また、下図は、この定義に基づいて描いた「ビジネス・フォーサイトの構図」です。詳細は「ビジネス・フォーサイト」のページをご参照下さい。
※「社会的価値」「社会的機能」については #311 社会の衰退から発展へ 社会問題と経営リスク、持続可能性の経済、社会価値創造 のコラムをご参照下さい。
ここで、上記ページ「3.2. 社会発展の方向性、社会的価値、社会的機能のつながり」の中で以下のように記しているように、ビジネス・フォーサイトは企業の社会の中で存在する意義と結びついていく意志が根底になければなりません。 何故なら「ビジネス・フォーサイト」がその企業の社会的価値創造に結びついたものでなければならないからです。
企業経営にとって大事なことは「自らの意志で描かれている」ことです。そこに[社会的価値]が埋め込まれ、果たすべき[社会的機能]が導き出されてくるのです。このつながりによって[社会的機能]は社会に対して「企業として果たすべき役割」となり、それが[社会の中での存在意義]へと結びついていくのです。
また、以下の当社コラムでは、ビジネス・フォーサイトを起点としてトランスフォーメーション戦略を構想していく概略の過程を考察していますのでご参照下さい。
2.コミュニケーションとは
2.1. コミュニケーションとは
2.1.1. 組織におけるコミュニケーションの定義(社会学の知見より)
コミュニケーションの定義は、立場や視点により様々にありますが、ここでは、ハーバート・サイモンとニクラス・ルーマンの定義を引用します。
- コミュニケーションとは、組織のあるメンバーから別のメンバーに決定の諸前提を伝達するあらゆる過程である(サイモン 1976 #1 p.199)。
- 組織におけるコミュニケーションは、二方向の過程である。それは、命令、情報、そして助言の決定センター(すなわち特定の意思決定をなす責任を与えられた個人)への伝達と、そこでの決定の、このセンターから組織の他の部分への伝達の両方を含む。(サイモン 1976 #1 p.200)
- 決定の連なり自体がコミュニケーションであり、「情報、伝達、理解」の三つの構成要素からなる。伝達/情報/理解が並列する、すなわち、相互に前提としており循環的に結びついている。(ルーマンの定義、佐藤 2023 #2 p. 219)
2.2. 組織におけるコミュニケーションを妨げる様々な要因
2.2.1. 限定合理性
- リソースの制約がある中で、どんなに広範な情報を収集しても、得られる知識は断片でしかなく、予測される結果も不確実であり、それを補う経験にも偏りがあり、想像しうる選択肢もごく少数に限られており、合理的な意思決定をするには限界がある。(サイモン 1976 #1 pp.102-107 を参考に記載)
2.2.2. アテンション・ベースト・ビュー(ABV)
- 企業は置かれている環境や市場、技術、組織内部など特定の課題に振り向ける注意の強さや幅の広さが変わるが、それが意思決定の質と行動選択に大きく影響する。(日本経済新聞 「認知能力」が企業成長の源 若林直樹氏 京都大学教授 2024.12.10)
2.3. 組織におけるコミュニケーションを成立させるために
サイモンやルーマンによる組織のコミュニケーションの定義は「画一的な製品の大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄」の経済発展モデルを前提として最適化された定義であり、今日における「持続可能性の経済」の下での「多品種少量生産・経験価値の販売(提供)・経験価値の消費・少量廃棄」の経済モデルに適用するために変更が必要となります。
2.3.1. 組織の社会的役割におけるコミュニケーションの意味づけ
当社では「#301 どのようなコミュニケーションが社会的価値の創造に結びつくのか」において、組織の中で交わされる「コミュニケーション」を以下にように意味づけています。
組織にとって重要なのは「組織内外における事象について、何らかの判断材料を加えて相手に伝え、相互の理解を確認し、どうしたらよいかという行動のモデルを協議し、決定したことを共有しあう」ことです。これが組織に求められる「コミュニケーション」(意志疎通)の意味です。
2.3.2. 組織におけるコミュニケーションを成立させる要件
同コラムでは、組織におけるコミュニケーションを妨げる要因の解決方法として、「社会について異なる意識を持つもの同士が、どんなにその社会について話し合っても、その社会に対する意識は深まらない。コミュニケーションが成立するためには、前提として、相互に共有しうる何かが必要なのである」と指摘しています。これらの詳細は、下記コラムをご参照下さい。
2.3.3. 組織におけるコミュニケーションを成立させる要件(図式)
下図は、上記コラムの記載に基づいて、「相互に共有しうる何か」について整理したものです。コミュニケーションを交わす人たちの間には、①Trigonal Thinking (俯瞰し、根元を深掘りし、多様性を包摂する倫理観を共有し、客観的に捉え、反対意見にも思いを巡らせる思考)、②思考の共通基盤と深層コミュニケーション(目的、目指していく姿、ロジック(思考の過程)、ビジネスセンス、実現状況、知的情報の共有)、③リフレクション(意思疎通し意志疎通する、元々はの意味は「考えや言動を振り返ること」)が必要となります。
2.4. 組織システムとしてのコミュニケーションシステム
下図は、サイモンとルーマンのコミュニケーションの定義 (佐藤 2023 #2 p. 219) をベースにして、上記「組織におけるコミュニケーションが成立するための条件」をつけ加えたコミュニケーションシステムの構図です。
上図では、サイモン・ルーマンの「情報-伝達-理解」の過程に「理解した結果に基づいてどのように行動するか」(①様々な視点からの施策の洗い出し(コミュニケーションによる合意形成)、②実施計画策定、③実施)の3つの過程を追加しています。そして、さらに、ルーマンの「相互に前提としており循環的に結びついている」に関しても、実施した結果のフィードバックとして描かれています。これこそがデータドリブンの意図することです。
なお、上図における「モデリング」を、当社では『多岐茫洋として判然としないことに対処するために、「①視点を決めて論点を整理し、②軸を決めて体系化し、③概念構造を定義して階層化し、④正規化して細部の役割(機能)を具現化し、⑤基準や手順を決めて行動の仕方を定めることであり、⑦実施して有効性を検証し必要に応じて改善する」という一連の思考過程であり、思考を行動可能な形に表していくことである。モデリングはメタ思考でもあり、モデリングをするにもモデリングが必要となる』と定義しています。
3.ビジネス・フォーサイトを導き出すコミュニケーション
3.1. ビジネス・フォーサイトを導き出すためのコミュニケーション
本コラムの主題は「組織のコミュニケーションから如何にビジネス・フォーサイトを導き出すか」ですが、その手順は以下の3段階によって構成されます。
- [社会の趨勢]から[社会発展の方向性]の仮説と検証を議論するコミュニケーション
- [社会的価値」「社会的機能]を定義するコミュニケーション
- [社会的価値」「社会的機能]を共有するコミュニケーション
このどの段階においても「組織におけるコミュニケーションを成立させる要件」が満たされた「組織システムとしてのコミュニケーションシステム」であることが必要となります。
3.2. 社会の中で求められる潜在機能の導出
しかし、導き出されるビジネス・フォーサイトの真の価値は「目の前にあるものに対するものではなく、ネットワーク上にあるバーチャルに描き出されたものも含め、今は存在しないものについての予見」であることです。これは「社会の中で求められる潜在機能を導き出すこと」であり、社会変革のディスラプション(破壊的イノベーション)の構想につながっていきます。潜在機能の導出については、下記サイトをご参照下さい。
3.3. 組織能力としてのビジネス・フォーサイトを導き出すコミュニケーション
こうした「社会の中で求められる潜在機能を導き出すコミュニケーション」を行うことのできる組織には下記の能力が培われていると考えられます。
- 他社の真似のできない希少な組織能力を獲得しうる能力
- 社会に対して影響力を発揮しうる能力
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一
【参考文献】
- ハーバート・A・サイモン、松田武彦.高柳暁,二村敏子訳、『経営行動 経営組織における意思決定プロセスの研究』、ダイヤモンド社、1965 (原著初版:1945,第三版:1976)
- 佐藤俊樹、『社会学の新地平 -ウェーバーからルーマンへ-』, 岩波新書1994, 岩波書店, 2023.11.17