#311 戦略眼と現実解 社会の衰退から発展へ 社会問題と経営リスク、持続可能性の経済、社会価値創造

1.衰退化する日本社会

 下図は、報道などで取り上げられている「日本において認識されている主な社会問題」を整理したものです。全体を俯瞰してみると、これら社会問題の多くは、戦後から高度経済成長期に形成してきた「既成の枠組み」の矛盾が露呈して生じてきた問題であると考えられます。

そして、これらは相互に関連し合って顕在化し、夫々に深刻化してきた問題ですが、将来を考えた時に、人口減少社会化は他の多く問題を加速し、日本社会を衰退へと導いていくものと推測されます。

また、早ければ2053年、遅くとも2070年代か2080年代には世界の人口も、地域差があるものの、総じて減少に転じ (#1 p.13)、2040年までには世界の50歳以下の人口は減少し、2050年までには、60歳未満の人口が現在より数億人減少し、65歳以上の人口は爆発的に増加する(#1 p.14)という報告もあります。

今はグローバルな社会の趨勢として、地球温暖化問題が盛んに取り上げられていますが、もし、地球規模で人口減少社会化が進めばグローバル経済も縮小していくことになります。今後、10数年のうちには、世界規模での高齢化、人口減少社会化による経済規模の縮小が議論されるようになると推測されます。

2.持続可能性の経済モデル

2.1. 修正が求められるこれまでの経済発展モデル

18世紀後半のイギリスで起きた産業革命を発端とした近代化は「画一的な製品の大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄」は「規模の経済」を前提として発展してきたものです。しかし、人口減少社会化による経済縮小化は「規模の経済」が成り立たない社会に向かっているとも言えます。

もともと、地球温暖化や自然環境汚染の問題を引き起こしてきたということを考えれば、「規模の経済」を前提とした「画一的な製品の大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄」の経済発展モデルは修正を余儀なくされていくものと考えられます。

2.2. 新たな経済モデル 「持続可能性の経済」

現在の新興国や途上国には経済発展の余地があり、劣悪な労働経済も改善され、労働の対価である賃金も世界中で平準化されていきます。こうした国々も含め大多数の国や地域の人々が経済的に自立し、多様性を包摂する社会になっていきます。そして、平等に豊かさを享受する権利への意識が定着し、自分らしく生きる世の中、自分なりの “Well-being” を追求する世の中になっていきます。

「画一的な製品の大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄」の経済発展モデルの修正も踏まえ、当社ではこれを「持続可能性の経済」と呼んでいます。ここで、改めて「持続可能性の経済」を前提として発展していく経済モデルを示します。

      多品種少量生産・経験価値の販売(提供)・経験価値の消費・少量廃棄

当「未来への歴史」コラムでは、これまで「持続可能性の経済」について考察してきましたので、ご参照下さい。

3.社会的価値を創造する

3.1. 企業経営を取り巻くリスク

下図は「認識すべき経営リスク」を類型化して整理したものです。従来、株主や投資家の利益を毀損するリスクとして関心を持たれていたのは「財務に関わるリスク」でしたが、ESG経営に関心がもたれるようになった現在では、多様なリスクが意識されるようになってきました。しかし、これらリスクの多くも、戦後から高度経済成長期に形成してきた「既成の枠組み」の矛盾が露呈して生じてきたリスクであると考えられます。

3.2. 社会的価値の定義

当社の「社会的価値」の定義を以下に示します。

社会の発展に結びつくこと。即ち、社会発展に還元される経済的価値、および、科学技術発展、文化発展、地域発展、組織変革、合理性の創造、安全安心の創造、仕事の創造、心豊かさの創造、良き人生の実現に向けた支援、人権の保護と深化、自然環境の保護・保全・育成(地球温暖化含む)、社会規範の発展と遵守、平和社会の構築などの経済的価値を超えた価値である。

「画一的な製品の大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄」の経済発展モデルでは、企業は「社会コスト」を考ずに済ませてきました。例えば、消費して出されたゴミの廃棄(焼却などの処分)は行政が担ってきました(ゴミの処分は企業活動の範囲外であり、公共事業として費用(廃棄コスト)も税金で賄われてきました)。

しかし、今日では、企業の社会的責任が強く意識されるようになり、環境負荷の小さい素材の調達段階から消費後の廃棄段階(廃棄物削減/繰り返し利用/再生、あるいは、循環型経済)に至るまでのコスト(社会コスト)にも責任を負わなければならなくなりました。こうしたコストも含め、社会全体としてかかる「社会コスト」の低減も企業が創造する社会的価値とも言えます(コスト削減によって企業価値を生み出すことと同様の考え方です)。

当「未来への歴史」コラムでは、これまで「社会的価値」について様々な視点から記してきましたので、ご参照下さい。

3.3. 企業の社会的役割

下図は「企業経営として取り組む社会的機能」を整理したものです。自然環境や人権に対する意識が高まってきている社会においては、企業は、単に「利潤の追求」をしさえすれば良いというのではなく、「社会的価値の創造」という役割も担っていかなければなりません。

下記コラムでは、企業の「社会的価値の創造」という役割について考察していますのでご参照ください。

33.4. 社会的価値の創造

下図は、企業が創造する社会的価値として洗い出した施策(メタモデル)を “SDGs” の17目標に対応づけて整理したものです。

  

これまでのESG経営では、企業が認識しているリスクから重点課題(マテリアリティ)を特定し、自社の既存事業をリスク対策に位置づけて、SDGs の目標に紐づけるという手順で考えられてきました。また、ESGのフレームワークでは「リスクと機会(ビジネス・オポティニティ)」となります。

一方、当社では、企業を成長させていく原動力はイノベーションであり、これからの企業経営にとって大事なことは、リスク対策に駆り立てられる経営ではなくイノベーションを起こす経営であると考えています。本コラムでは、『社会の衰退から発展へ』という文脈から「社会問題と経営リスク」「持続可能性の経済」「社会価値創造」という流れで記載してきましたが、「社会的価値創造」というディスラプションを創出する戦略の構想が本来の在るべき姿となります。

この点については下記に詳細を記しています。

4.これから求められる社会的価値 “Well-being”

企業には「雇用の創出」が期待されますが、社会コストも視点に立てば「貧困を減らす」ということにつながります。貧困の対策に充てられる社会保障費の大きさを考えると、企業は「雇用の創出」により社会コストの低減を図るという社会的役割を担っていると言えます。

しかし、これからの社会では、「雇用の創出」ばかりでなく「働き甲斐」を創造しなければなりません。これからの企業は「社会的価値の創造」を通して、企業は従業員も含めた “Well-being” を追求していくことになります。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

【参考文献】

  1. ニコラス・エバースタット、『高齢化と人口減少の時代 - 人口減少と人類社会』、フォーリン・アフェアーズ・リポート 2024 No.12

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