右肩上がりの経済成長の時代が終焉し、現在は、持続可能な社会の発展(サステナビリティ)の時代です。そこで、当コラムでは持続可能な社会の発展(サステナビリティ)の時代のフォーサイトコミュニケーションについて考えます。
サステナビリティへの意識の高まり
今日では「サステナビリティ」という言葉を耳にしない日はなくなりました。ほとんどの企業も、ESG対応やSDGs活動としてサステナビリティ報告書に掲載しています。
頻発し激甚化する気象災害を目の当たりしにして、地球温暖化に伴う気候変動への不安も募っています。何とかしなければという意識も高まり、脱炭素化に向けて再生エネルギーの利用や節電に積極的に関わるようになりました。プラスチックごみの分別廃棄、有償化したレジ袋の利用など、自然環境の保全についての意識も高まりました。
ジェンダー不平等、経済格差の拡大による貧困の拡大、過重労働や過労死、様々な種類のハラスメント、明らかになる多数のえん罪といった数多くの社会問題を目の当たりにして、誰もが平等であり、他者の尊厳を尊重しなければならないという人権に対する意識も高まりました。今日に生きる私たちにとって、将来の人たちの人権を守るという意味でも、多様性を包摂する社会の持続可能な発展の必要性が共通の認識となっています。
私たちが感じている不安
私たちが感じている不安を挙げてみると、以下に集約されるのではないでしょうか。
- 最近は物価高で賃上げが追い付かず手取りの目減りで生活が苦しくなってきています。貯蓄も思うよには増やせず目減りするばかりです。経済格差の拡大という社会的状況もあり「私の暮らし向きも人並みでありたい」という不安が高まっています。
- 国内外で、化石燃料に依存する既存の産業の衰退を招くという主張、および、脱炭素化への取り組みにはコストがかかるという重荷感から脱炭素化への根深い抵抗もあります。脱炭素化の象徴である電気自動車(EV)も欧米諸国、日本では伸び悩んでいます。
- 核使用をちらつかせた戦火の広がり、報復の応酬と公然とした民族浄化、力による一方的な現状変更、そして、蔓延する社会の分断など、世界の動向に私たちの生活が振り回されるという不安とともに、平和の時代が終焉しつつあるのではないかという不安もあります。
先日行われた衆議院議員選挙では、政治とカネの問題が争点となる一方で、手取りを増やすと主張した政党が躍進しました。投票率が過去3番目に低くかったとは言え、物価の値上がりで日々に使えるお金が目減りするという現実の不安を解消したいという有権者の思いが、投票行動に影響を及ぼしたと言えるでしょう。その一方で、未来社会をどう描くかについては、大きな争点になりませんでした。
11月5日の米国大統領選挙の結果は、日本の未来にも大きく関わってくるでしょう。そもそも、未来に向けて社会発展の方向性が見えないということが、私たち の不安の根っこにあるのではないでしょうか。
フォーサイトを持つということ
重くのしかかる不安感、大国のエゴがぶつかり合って止められない戦禍、次第に大きく聞こえ始めている戦争への足音に、私たちは無力さを感じています。サステナビリティへの意識も、そうした音にかき消されて、深掘りがなされていないのが現状ではないでしょうか。
しかし、そうした状況に甘んじている訳にはいきません。今を生きる現在の私たちには、将来世代の人たちに対して、今よりも豊かさのある人生を過ごすことのできる未来社会を築いていく責任があります。そして、その責任を果たすために必要なことは『フォーサイト』です。
本コラムのタイトルにあります『フォーサイト』は「先見の明」と訳されますが、「先のことを、道理をもって見通す力」というべきでしょう。しかし、『ビジネス・フォーサイト』で示したように、『フォーサイト』は、社会の趨勢を捉えて、自分なりに社会発展の方向性を描いて、未来社会にとってどんな価値があって、自分がどのように関わり、貢献していくかまでをも含めたものです。
フォーサイトコミュニケーション
政治や経済の話題は、お茶の間の話題にはならないにしても、気の合う仲間同士が交わす飲み会では話題になりえます。しかし、未来の在り様についての話題は、日本人はあまり得意ではないし、また、イデオロギー的な議論の予感がして話しづらく話題になりにくいものです。
筆者のイギリス人の知人は「イギリス人は子どものころから社会を俯瞰して考えるようにと教えられているけど、日本人は社会を俯瞰して考えていない」と話していました。全てのイギリス人がそうで、日本人がそうだとは限りませんが、実に的を射た指摘だと思います。
私たちは、社会を俯瞰し、未来に向かって一歩だけでも踏み出して社会発展の方向性を考えてみること、周りの人たちと自分の思い描く未来社会の在り様について語り合うことが『フォーサイトコミュニケーション』です。
自分なりの『フォーサイト』を磨いていくためには『フォーサイトコミュニケーション』が必要です。『フォーサイトコミュニケーション』によって一人ひとりが自分なりの『フォーサイト』を磨き上げて多様性のある社会を築き、豊かさのある未来を選択していけるようにすることこそが、今の不安を解消する唯一の道ではないでしょうか。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一