2024年8月6日の日経平均の終値は前日比3,217円04銭高の3万4,675円46銭でした。終値ベースの上げ幅は1990年10月20日の2,676円55銭を上回って、上げ幅としても過去最大でした。これを安心材料としてニューヨーク株式市場も値を上げました。NISAで投資を始めた初心者だけでなく、一昨日のニュースを聞いた多くの人の不安も、少し落ち着いたのではないかと思います。
しかし、2024年8月7日の午前の値動きは、前日の反動で反落して始まり、一時前日比936円安まで下げて、その後、金融当局者の発言を受けて、一時1,100円超高まで持ち直すという荒い展開になっています。これからもしばらくは、日米の経済指標の動向で一喜一憂する場面が続くだけでなく、中東情勢や11月の米大統領選挙の動向に気を取られる値動きになることは間違いありません。
投資家から求められる「儲け続けること」と「成長し続けること」
もともと、投資とは、金利の動き、為替相場の動き、株式相場の動き、政治情勢も絡む石油価格や気候変動にともなう食料の先物取引価格の動向を見て、瞬間々々にお金を動かして儲けるものだという認識があります。投資家は、企業のレピュテーションリスクに敏感になり、より高い配当や株価上昇を目的とした企業変革も迫ります。企業の経営者からすれば、ESG格付けに過敏に反応しなければならず、常に、短期的利益の確保に集中し続けなければならないという心的状況に追い込まれます。
一方、個人投資家にはアルゴリズム高速取引のような儲け続けるための手段はありません。政治家やメディア、投資の初心者を集めたセミナーなどでは、株価の動きに一喜一憂せず、何よりも、資産形成の手段として分散して長期的に株を持ち続けることを勧めています。これは、企業が「成長し続けること」を前提としています。企業の経営者からすれば、長期的に稼ぐ力を身に着けていかなければならないことを意識せざるを得ません。
「儲け続けること」と「成長し続けること」は全く別のもの
そもそも、成長し続けるためには、既存事業で得たキャッシュを新たな事業の芽に投資をして、既存事業の改善や持続的イノベーションではなく、破壊的イノベーションを起こしていかなければなりません。これには長期的視点とリスクテイクが必要です。投資家にも事業の成長性について目利きできる能力が求められます。当然のことながら、短期的利益を確保する「儲け続けること」と、イノベーションを起こして「成長し続けること」は同じことではないと強く認識しておかなければなりません。
経営学の世界では「両利きの経営」(#1)の必要性が指摘されています。至極当たり前の考え方ではありますが、言うは易く行うは難しです。
根本には日本人に特有の思考様式がある
日本人の思考様式には「実績のあるものには隷従し、新参者や目新しいものは排除する」という傾向があります。同調圧力が強い国民性、高度経済成長期から抜け出せていない、茹で蛙現象などと揶揄されているのは、そうした思考様式があるからです。
バブル経済崩壊後の失われた30余年にこの傾向は顕著のように思えます。実際、日本発の破壊的イノベーションは目立っては起きていません。今の日本人にとって「成長し続けること」は難しいことになったのかも知れません。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一
- チャールズ・A・オライリー,マイケル・L・タッシュマン、入山章栄監訳・解説,冨山和彦解説,渡部典子訳、『両利きの経営 -「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く-』, 東洋経済新報社、 2019.2.28