2024年8月5日の日経平均は前週末比4,451円安の3万1,458円で終えました。1987年10月20日に起きたブラックマンデーでの急落(3,836円安)をあっさり超えました。また、ニューヨーク株式市場もダウ平均株価の終値も前週末比1,033ドル99セント安の3万8,703セントの急落となりました。
今回の日本の株価大暴落の原因は、後日、詳細に検証されると思われますが、売りが売りを呼ぶパニック売りとも、見様によっては、過熱気味だった株式市場の調整段階に入ったに過ぎないとも言えるかも知れません。
肝心の日本企業の業績は好調で、国内産業が原因の株価の暴落ではありません。しかし、米国の景気減速の懸念から始まった株価の下落と急速に進んでいる円高が直接的な原因だとすれば、底値は見えておらず、市場が落ち着くまでは時間がかかると思われます。その間、米国発で日本に波及した株安は世界同時株安へと広がり、さらに、今後、予想される米国の利下げと日本の物価上昇を抑制策としての利上げの相乗的作用による円高、円高による輸出企業の業績悪化による株安へと負のスパイラルが起き始めています。徐々に景気後退局面(リセッション)になっていく可能性もあります。
バブル経済崩壊から今日まで続いた不況の影響
かつて、日本を襲った景気後退の局面では、多くの経営者は、真っ先に「入りを量りて出るを制す」を規範として行動したものです。このマインドはその後も心の奥底にしみわたり、日本企業の多くは、現在に至るまで内部留保としてお金を使わずに貯め込んできました。これが、失われた30年と呼ばれる事態です。そしてその後、政府の賃上げ政策もあり、人手不足もあり、ようやく労働分配率の見直しの機運が高まってきました。その矢先に、この急速な円高と株安のスパイラルが起きたというのが、現在の状況です。
不況対策が景気後退へとつながるお決まりのシナリオ
今後、いつもながらのお決まりのシナリオが展開されることなることでしょう。利益率の悪い事業を見直して事業の再編と人員削減を図る動きも始まるでしょう。イノベーションへの投資も慎重になるでしょう。プロセスのコストカットに傾注するでしょう。デジタル・トランスフォーメーションなど不要不急と見なされる社内プロジェクトは中断するか予算額の削減に迫られるでしょう。先延ばしできる発注は中止になるでしょう。このようにして、経済活動は停滞し、景気後退の流れは強まっていきます。
新たな不況の深層で進む顧客の変化
社会の中で暮らす人たちの心はどのように変化するでしょうか。おそらく、安くても不要なものは買わなくなるでしょう。自分に合った商品にこだわり、商品をより厳しく選別するようになるでしょう。こんな状況だからといって多様性や包摂性/環境保護/地球温暖化対策をなおざりにしたり、コンプライアンスを軽視したりして、利益出しを優先する企業に疑問を持つようになるでしょう。企業を見る目が一層厳しくなって社会的に評判の良い、信用のできる企業の商品しか買わなくなるでしょう。
今、企業として行うべきは、ソーシャルブランドと組織能力の優位性の強化です
時価総額が目減りしたとは言え、企業の業績を支える収益を生み出す力があれば、長期的に見れば株式に投資してきた投資家は戻ってきます。
これから起きることに対して、経営として取り組むべきは、低価格戦略ではなく、競争力のある商品への選択と集中戦略でもなく、付加価値競争戦略でもなく、一もなく二もなく、社会的評判(ソーシャルレピュテーション)戦略によるブランディング、そして、個々の顧客の要望にきめ細かく、臨機応変に対応できる組織能力を優位性として築き上げることです。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 池邊純一