#269 縮んでいく日本経済/日本社会を救う人事制度 リスクテイクし自律して行動する人を高く評価する

20世紀に高度経済成長を支えた日本の人事制度

 日本の人事評価制度には批判が多くあります。温情主義である、年功序列で生産性が低くて高給の人が居座っている、自分の任期中は波風が立たないようにしているなどはよく耳にします。確かに、終身雇用と年功序列は高度経済成長期を支えた制度であり、時代の在り様にマッチしなくなってきているのかも知れません。

バブル経済崩壊後、デフレ経済期に人件費を抑えるために導入が進んだ成果主義

 こうした批判を背景に成果主義を導入する企業も多くみられるようになりました。しかし、成果主義に問題がないかと言えばそうでもありません。上位者に決められた目標を素直に聞いていれば良い(Yes manが増える)、目標さえ達成していればよい(あとは頑張らなくても良い)、自分の目標に関係のないことはしない(利己主義になる)といったことです。

また、気に入らない部下を辞めさせるために過大な目標を押し付けた挙句、達成できなかったからといって降格したり配置換えをしたりして、辞職に追い込んでいくなどといった事例を目にしたこともあります。

 転職の際に高い給料と退職金を求めて不可能とも思える数値をコミットして3年ぐらいは我慢しよう、3年過ぎる頃にコミットした数値が達成できないことが判明し、在職していた企業を踏み台にしてよりビッグネームの企業に転職してしまう、といった成果主義を悪用するキャリアアップすらできてしまいます。

人手不足の時代に専門知識を持つ優秀な人を採用するために導入されたジョブ型雇用制度

 成果主義と合わせて、既定のジョブディスクリプション(職務定義)に対応した雇用制度(ジョブ型雇用)を採用している企業も増えてきています。しかし、大量生産・大量販売・大量消費の時代は終わり、今や、顧客経験価値が求められる時代です。決められたことを正しく行う能力は求められていません。

 それよりは、むしろ、顧客の要望を満たすために、現場で自分の判断で、臨機応変に対応していくことが求められています。製造現場においても、少品種少量生産に対応するために、製造現場でも、工程間で日程や工法などをすり合わせしながら、滞りなく進めていく能力が求められています。

自立し自律して働ける人が求められる時代へ

 今日では、何よりも、自律して働ける人が求められています。否、「自律して働く」ということは、100年以上も前に、マックス・ウェーバーが「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」で論じていた働き方でもあります(#1)。今でも「言われなければやらない」「言われたことを言われただけしかしない」という働き方は生産性が低い働き方みなされています。しかし、こうした働き方を良しとしてしまったのは、大量生産・大量販売の時代に、人も機械と同様に歯車として働くことが最も効率よい働き方とみなされるようになったからです。

 筆者は、自立し自律して働くことを以下のように定義しています。

  • 経済的に自立し、様々な権利(人権)がその人に確保されて、個人の自由意志が形成され認識されて初めて「自立」と言えると定義する
  • こうした自立した個人が、内発的に意見を表明し、他者に対して提案し、お互いの意見の相違を受け容れて、自ら調整して実現していけるようになるのが「自律」していると定義する。

創造的仕事を創造する社会に求められる人事制度

 「創造的仕事の創造」には、当然のことながら、既定のジョブディスクリプション(職務定義)はありません。むしろ、自分で自分の職務(働き方)を規定しなければなりません。求められるのは、①自らの意志でリスクテイクし、②実現するために自立し自律し、③必要と思えばどんな仕事にも厭わず立ち向かっていく、という働き方のできる能力をもった人です。

 一方、経営者自身も率先して、①リスクテイクし、②失敗を恐れず新しいことに挑戦する社風を醸成し、③上述のような能力を持った人の背中を押してやり、④逆に、例えば、人が失敗するのを喜んだり、成功するのを妬んで邪魔をしたり、協力せずに足を引っ張ったり、人事で人を思うように動かそうとしたり、ハラスメントを野放しにして人の行動を抑圧したり、利権のために派閥を作って社内でいがみ合ったりする行為は恥ずかしいことだと、みんながお互いに戒め合う企業になるように社風に変えていき、⑤「部下の成功は部下の手柄、部下の失敗は上司の失敗」という組織文化を育んでいくことが求められます。

避けなければならない規模の不経済の発想

 社内起業を募るという制度を採用している企業もあります。企業が大きくなれば、固定費も増えます。固定費を賄えるだけの利益が見込まれるかで新しいアイデアの目を摘んでしまうことも散見されます。これは、規模の不経済という発想です。こうしたネガティブな思考に陥ることだけは避けなければなりません。

縮んでいく日本の経済、日本の社会を救うために

 何よりも必要なことは、「創造的仕事を創造する社会」になることです。そしてそのためには、一人ひとりも「リスクテイクし自律して行動する人」になることが必要であり、人事制度としても「リスクテイクし自律して行動する人」を高く評価する制度になることが求められます。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

 

  1. 佐藤俊樹、『社会学の新地平 -ウェーバーからルーマンへ-』, 岩波新書1994, 岩波書店, 2023.11.17

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