競争優位を最重点課題として経営を推し進める

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ここでは、「市場競争の枠組みを読み解いて優位性を最重点課題として経営を推し進める」という課題に対して、どの様に変化やその兆しを捉えて、戦略を構想したらよいか説明する。

市場や競争環境の変化や兆しを捉える

市場や競争環境の変化や兆しを様々な数値で捉える

市場の動向は自社だけの力では捉えきれない。外部団体の調査結果をうまく活用して市場の競争環境を捉えることが、これからのビジネスの成否の鍵を握っていると言っても過言ではない。

  • 総務省、経済産業省、消費者庁等、及び、その外郭団体の諸調査、白書
  • 業界地図、資本提携、技術提携、業務提携の動向
  • マーケットリサーチャーの調査による市場規模、市場シェア
  • プロダクトライフサイクルの状況

また、社内の営業活動を通して得られる顧客情報も重要な情報源であり、実体としての市場の競争環境を捉える重要なチャネルでもある。

  • コンタクトのある顧客の動向(受注の見込みの増減、及び、その理由)
  • 顧客シェア

データから読み解く市場競争の枠組みと経営資源を集中する上での論点

市場は多様にどんどん変化していく。企業の収益源である事業も、例え一時の成功があったにせよそれに安穏として、市場の変化に着いていけなければすぐに廃れて、競合企業に市場を奪われてしまう。とはいえ、経営資源は限られており、全てにおいて何でもやれば良いという訳にはいかない。効果的な分野に集中して経営資源を投入していくためには、常日頃から、この商品、一体誰が買うんだろうか、お客様の高年齢層の上限は伸びるか年代層は変わったか、等の視点により顧客層を捉えておく、事業を展開する標準的地域はどこか、また、次にこの自社商品の成長期を迎える国はどこか等の視点によりどの地域での販売が好調か、そこでの流通事情は今後どうなるか、更には、他社は何を仕掛けてくるだろう競合相手は他社の優位市場にどこまで参入するかといった機会と驚異を捉えておくことが確実に求められている。

また、どの企業も、規制緩和が新たなビジネスチャンスになるのではないか、逆に、これまでの事業をこれまで通りに展開できなくなるのではないかと、その動向に戦々恐々としている。規制緩和は異業種への参入の機会でもあり、参入障壁が低くなり異業種からの新規参入が増えて市場が激戦状態になるきっかけともなりうる。国内、および事業を展開している相手国において法規制、税制、商習慣、環境の変化が商品にどう影響しているか、常に先を読んで取り組んで行くことも必要である。


市場競争の枠組みを読み解いて優位性を発揮できる分野に経営資源を集中するために

市場競争の枠組みを読み解いて優位性を発揮できる分野に経営資源を集中する戦略策定の基本手法として、現在でも多くの企業が、1960年代に提唱されたSWOT分析[Strength(強み)、Weakness(弱み)、 Opportunity(機会)、Threat(脅威) ]やPPM分析[Products Portfolio Management](1960年代にボストンコンサルティンググループが提唱した経営分析手法)を採用している。ここで、問題になるのは以下の場合である。

  • 花形産業に対して強み・機会があるが、競争が激しく脅威がある場合 (経営資源の消耗戦になりかねない)
  • 金のなる木に対して弱み・脅威がある場合 (利益を得て投資を回収したいにも関わらず競争劣位であり、競合他社に市場を食われてしまう) 
  • 負け犬に対して強み・機会がある場合 (そもそもこの分野では儲からない)
  • 問題児に対して強み・機会がある場合 (そもそもこの分野では儲からない)

90年代にはMichael E. Porterによる5Forces分析(供給企業の交渉力、買い手の交渉力、競争企業間の敵対関係、新規参入業者の脅威、代替品の脅威)による業界間・業界内における競争環境の分析と競争戦略立案の手法[1]が流行し、2000年代にはJay B. BarneyのVRIO[Value(価値)、Rare(希少性)、Inimitable(模倣不可能性)、Organization arrangement to execute Strategies(戦略に対する組織化の適合性)]による経営資源管理に着目した戦略分析の手法[2]が日本にも紹介された。

2010年頃より、ビジネスエコロジー(生態系)という考え方が広がりつつある。

  • 自然界の生態系を参考にしたモデルであるが、そこでは、多種多様な生物が自然環境に順応しながら共生し弱肉強食の中で生き抜き、更には、そのこと自体が自然環境を織りなして進化を続けていく。ビジネスエコロジーは、自然界のアナロジーとして、ビジネスの世界の様々な組織が企業間競争と合従連衡をしながら生存と成長、進化を続けていると考える。
  • 複雑化したビジネス世界の中で、競合企業との生存競争を生き抜くために、自社のリソースだけでは解決できないことを、サプライチェーンや販売チャネルとの共生、パートナー企業との共生により実現化していこうという組織の行動を、夫々の関係者がメリットを享受できるように全体としてのバランスを保ちながら戦略的に仕組んでいくモデルである。


市場競争の枠組みを読み解いて優位性を発揮できる様に経営資源を集中する

シェア拡大を意図した戦略展開

“シェア拡大の戦略展開” を考えるのは以下の理由による。

  • 直接的には、売上の拡大、売上高成長率拡大へとつながる。
  • シェア拡大の戦略展開のためには、客単価アップ、顧客数拡大、顧客シェア拡大、製品間の相乗効果による需要の創出等が図る必要がある。ひいては、新たな市場開拓、顧客開拓へと結びつき、企業の持続可能な成長につながっていく。

シェア拡大の戦略展開の類型例を以下に示す。

  • 商品の差別化だけでなく優位に立てる市場へ戦略を転換する
  • 転換した標的市場に対して販売網・販売力のある販売会社を確保しチャネルシェアを拡大する
  • 転換した標的市場に対して、安定供給できる優秀で安全なサプライヤシェアを確保する
  • 転換した標的市場において、商品/サービス、サプライヤ、チャネルの状況をウォッチして、その時点での最適ミックスを構築し続けていく

需給変化に即応する生販在組織の効率化(投下資本回転率向上の戦略展開)

“投下資本回転率向上の戦略展開” を考えるのは以下の理由による。

  • 直接的には、キャッシュの回転による経営を可能とする。ひいては、株主価値の増大へとつながる。
  • 投下資本回転率向上の戦略展開の実現のためには、売上回収、仕入支払いのプロセス改革、労働生産性の向上、在庫水準の適正化と滞留在庫の圧縮、設備稼働率の適正化と遊休設備の圧縮などを図ることが必要となる。ひいては、常なるプロセスの改革、経営のスリム化へとつながっていく。

投下資本回転率向上の戦略展開の例を以下に示す。

  • 多様なニーズに即応して再編できる販売組織体制にする
  • 多様なニーズに即応して再編できる生産組織体制にする

販売物流拠点化による競争優位化を意図した展開

“販売物流拠点化による競争優位化の展開” を考えるのは以下の理由による。

  • 直接的には、売上高の増大、ひいては、株主価値の増大へとつながる。
  • 販売物流拠点化による競争優位化の展開により、短納期での納品を可能とすることで受注拡大(納入リードタイムの短縮)、市場や顧客に近いところに拠点を持つことで、顧客のニーズを吸い上げられる、顧客へのきめ細かいサービスが可能となり顧客の獲得利益の増大化を図ることができるようになる。

販売物流拠点化による競争優位化の展開手順例を以下に示す。

  1. 地域の文化や生活様式に合う商品を、その地域の環境変化にきめ細かく合わせて、迅速に提供できるように、販売拠点、ストックポイントの配置計画を策定する
  2. 事業を展開する拠点、及び、その商圏の特性から、顧客志向の販売、サービス体制を構築する
  3. 事業を展開する拠点、及び、その商圏に関する将来のマーケットの見積規模と変動リスクを評価して、事業展開の方針や事業規模を見直しを行う
  4. 事業を展開する拠点、及び、その商圏における将来の期待シェアと変動リスクを評価して、事業展開の方針や事業規模を見直しを行う
  5. 事業を展開する拠点、及び、その商圏に関するビジネスの寿命と投資回収リスクから、投資回収計画の見直しを行う
  6. 事業を展開する拠点、及び、その商圏における将来の期待投資利益率と変動リスク、損益分岐点から顧客価値の最大化を目的とした事業展開の方針や事業規模を見直しを行う
  7. 顧客との取引関係強化を図りつつ、その変化に応じて適宜適正な販売コストの投入となっているか管理して、必要であれば是正する


関連事項

  1. 経営環境と戦略のバリエーション
  2. 類似例

引用

  1. Michael E. Porter, “COMPETITIVE STATEGY”, 1980, 『新訂 競争の戦略』ダイヤモンド社、1995
  2. Jay B. Barney, “GAINING AND SUSTAINING COMPETITIVE ADVANTAGE, Second Edition”, 2002, 岡田正大訳『企業戦略論 上』ダイヤモンド社、2003年12月